宮田昇始のブログ

Nstock と SmartHR の創業者です

VCから見たSmartHRの取締役会(社内文章を公開します)

ごぶさたしております、Nstock / SmartHR の宮田です。

最近は Nstock のコーポレートブログで書くことが多く、個人ブログで書くのはひさしぶりです。そしてひさしぶりの SmartHR ネタです。

SmartHR の取締役会の話

SmartHR 社の取締役会には、社内取締役 5名、社外取締役 6名、事務局メンバー若干名に加えて、株主であるVCからもオブザーバーとして数名が参加しています。

その参加者の1人に、シニフィアン小林さん(以下、コバケンさん)がいます。

2019年のイベントでの写真。みんな若い。左から2人目がコバケンさん。

私は、コバケンさんと雑談をする機会が多く、彼から日常的に「SmartHR の取締役会の特長」を教えてもらっていました。コバケンさんからもらったアドバイスをもとに、良いところを伸ばせるよう、取締役会での自分自身の立ち振る舞いも調整していたように思います。

しかし、このアドバイスは宮田が個人的にもらっていただけで、他の社内取締役メンバーには特に共有していなかったように思います。

先日の CFO 交代をきっかけに「今後も取締役会のメンバーが入れ替わることもあるよなあ。いい機会なのでコバケンさんから見た SmartHR 社の取締役会の特長を文章にしてもらおう」と思い、執筆をお願いしました。(※ SmartHR 社の CFO 交代の裏側を語るイベント を来週開催するのでよければそちらもぜひ)

コバケンさんに依頼したSlackのスクショ。普段はNstockの宮田として一緒に働いています

この依頼に対して、コバケンさんが書いてくれた文章がすごく良い内容だった & SmartHR 社内だけに閉じているのはもったいないよなと思い、許可をもらって全文をブログに転載します。

スタートアップ業界の皆様から、「SmartHR 社の取締役会ってどんな感じなの?」と聞かれることも少なくないので、取締役会の運営に悩むスタートアップの皆さんの参考になれば幸いです。

本題の前に、コバケンさんの紹介

コバケンさんは元 DeNA の役員で、シニフィアンでは投資家として SmartHR や タイミーなど複数のスタートアップに投資されています。

最近、新 CEO 永見さんへの大型株式報酬設計で話題になったラクスル社では、社外取締役に加えて指名報酬委員長の役割も担われています。

ラクスル社の開示資料より

私とコバケンさんの関係は、2018年ごろから「コーポレート・ガバナンスって何?」という相談にのってもらうようになり、2019年の SmartHR 社のシリーズ C の資金調達で株主になってもらい、2022年からは Nstock 社のエグゼクティブ・アドバイザーになってもらい、いまでは週3くらいで一緒に働いています。

本題: コバケンさんから見た SmartHR 社の取締役会

元々は社内向けの文章なので、言葉遣いなども社内向けのままになってます。もしかしたら少し読みづらいかもしれませんが、ご容赦ください。

それではどうぞ!

SmartHR社の取締役会についての所感
2023.10.2
シニフィアン株式会社 小林賢治

 
SmartHRの取締役会は、私が知る中でも特にうまく取締役会が機能しています。具体的に、どういう点がうまく回っているかについて、私の所感をここにまとめるので、ぜひご参考にしていただければ幸いです。

1. 発言に対するフィードバックが明確にある
→これ、ほとんどの会社の取締役会で残念ながら欠けがちな点です。重たい議題が多い会議だけに、何らかのリアクションをするのを躊躇している面があるのかもしれません。SmartHRでは、Zoomのチャット機能をうまく使うことによって、発言者に対して賛成 / 反対 / 補足など、ありとあらゆる反応が伺うことができ、発言者としても発言する意欲が高まります。これは、取締役会に対する参加意欲を高める大きなドライバーになっていると思います。

2. Side talkとメインの議論が区分されている
→上記に絡むのですが、ときどきチャットがすごく盛り上がることがあります。でもそうしたときも、それが議論全体を支配してしまったり、あるいは本論の議論の時間を奪ってしまったりすることがなくて、あくまで「side」なままキープされている。松﨑さん(注: 社外取締役 / 取締役会議長の松﨑 正年さん)の差配力による点も多分にありますが、同社がもともともっている「slackとリアルな議論の使い分け」の習熟による点も大いに効いているのではないかな、と。
これにより、「今日いろいろ話したけど、なんかようわからんかったなー」という状態に陥ることを防げています

3. 議題についてタブーがない
→これは、取締役会に限らずSmartHR全社について感じる素晴らしい点です。
いろんなことが平場で話せるというのは、とても良い点です。御社にとってはシンプルかつ当然なことのように感じられるかもしれませんが、多くの会社では、「ええっと、この議題はAさんがいる前では話しづらいな…。別の機会で個別に話そう」となったり、もっと極端には「各取締役・株主に個別に説明して説得(これ、実はよくあります)」になったりします。CEO交代の件などがその典型です。
また議論の内容も、真の意味でBad news firstになっていると感じます。「違和感」レベルで早めにアラートが上がってくるのもとても良いと思います(たとえば、かなりリソースを投下してきた大型案件を継続すべきか否か、など)。

4. ちょっとした違和感をそのままにしない
→組織がおかしくなっていく時、いきなり極悪人が現れてその人が強烈な権力でおかしなことをしはじめるってことって、まずないと思うんです。「あれ?なんか変だぞ」とか「どうもしっくりこないな…」ということをみな薄らぼんやり感じつつ、それが明確に言語化されない状態が続いてくる中で、なんとなくみんな受け入れてる体(てい)になってしまい、それが定着化する…。これが大なり小なりスタートアップでも起こってしまったのをよく目にします。 先日、「SaaS事業が****で伸び始めたら〜」の言葉使いに関して、宮田さんが「その言葉が一人歩きするのは良くないと思う」とはっきり声を上げられましたが、まさにあの感じが大事だと思うのです。多くの会社で、ああいうことが流されて、後になってから「そういえばあの時ちょっとひっかかってたんだよな〜」みたいなことになるパターンがよくあります。小さな違和感にしっかり向き合えるのは、SmartHRの大きな強みだと思います。

5. 議長と事務局のペースコントロールが優れている
→これは決して過小評価してはならない点です。一見すると細かく見えるかもしれませんが、発言する際に「挙手ボタン」で手を挙げて、かつ議長に指名されてから発言する、というスタイルが確立している点も見逃せません。
自由発言はともすると一部の人に発言が寄ってしまいがちですが、松﨑さんの規律によりいろんな人に発言機会が提供されています(これ、単純そうにみえて他のスタートアップであそこまで明確に議長が仕切ってるのを見たことがありません。松﨑さんのようなベテラン議長がいたからこそだと思います)。
また、松﨑さんご自身が議題についてきちんと理解をされた上で挑まれている点も効いていると思います。事務局と松﨑さんの間で事前のやりとりがしっかりなされているのではないかということが伺われます。
事務局が、各議題の時間配分(およびそれが適切であったかの事後アンケート)をしている点もとても良いと思います。多くの会社ではこれがあっても有名無実化していることも少なくなく(あるいはそもそも無い)、議事進行が予定通りに進まないこともままあったりするのですが、SmartHRはそうした事態に陥らずに多くの議題をテンポよくこなすことができています。

6. 議論したあとの「その後」のフォローがしっかりなされている
→毎回事務局から送られるアンケートもフォローの一つではあるのですが、私が感じるのは、「決めたことがその後改めて揉まれた上で再度上程される」ことがよくある点を、とても心強く感じます。多くの会社で、「もっとこれについては議論を深めよう」としたまま、なしのつぶてに陥ってしまうパターンが少なくありません。喫緊に決定しなければいけない議題であれば尚更です。ただ、SmartHRでは、各議案のオーナーが明確に定められているからなのか、いずれの議題も後日議論を深めて改めて議論されており、取締役会が機能していると実感できます。
取締役会は「Yes or delay(決議、もしくは改めて議論を深めてもっておいで)」を主とすべし、とある高名な方(Googleなどのボードのコーチングをやってらっしゃったプロフェッショナルの方)から伺ったことがあるのですが、上述した点がうまく機能していないと、「Yes or (事実上)No」になってしまい、過度の権限をもってしまって現場の発案を殺してしまうことになりかねません。

7. 取締役の人選が適切
→これは自分も関わっていたので手前味噌なところもあるかもしれませんが、実際そう感じているので、面映さもありつつ挙げておきます。多くのスタートアップでは、社外取締役を選ぶ際に、「アドホックに(=全体像を描かずに)知っている人に声をかける」ということをやりがちです。しかしSmartHRではそれをせず、取締役会の進化ロードマップを書いて、「まず議論を差配する議長を入れ」「今後の議論に向けてかくかくしかじかの人をいれていく」というステップを明確にしました。また、社外取締役について、「なんとなく知ってる人」という狭いユニバースからではなく、広く世の中全体から可能性のある人をリストアップしてアタックする、という方法をとったことで、本当に各分野から素晴らしい人が選ばれていると感じます。単純明快ではあるのですが、これだけのことをきちんとやって取締役会構成を選んだ会社はそうはないと思います(スタートアップならなおさらそう)。

【総括】
GAFAMなどの米国の多くのボードに関わったことのある上述のプロフェッショナルの方から、取締役会の心構えについてレクチャーを受けたことがあります。その際彼女が明確にもっとも力強く言っていたのが、「強いボード・カルチャーを作ること」でした。ここでいう「強い」とは、お互いに仲が良いとかいうこと以上に、「大事なことを議論しやすい場をつくる」ということにあると私は理解しています。

残念ながら、このシンプルな命題を実現できている企業は決して多いとは言えません。SmarHRでは、参加者がこれをしっかり理解し、非常に生産性の高い議論をすることができています。

一定の期間を経たのちには、また新たな取締役会像を求めることになろうかと思います。その時に向けて、しっかり準備してこの「強いボード・カルチャー」をぜひ磨き続けてもらえればと思います!

以上です。

コバケンさんはホメて伸ばすタイプなのでホメばっかりでしたが、実際にはまだまだ改善の余地はあると思います。参加者の発言量に少なからず偏りがありますし、まだ話せていない重要な議題に気づけていないような気もします。

ただ、自分たちの特長って一番わからないものですが、こうしたコメントをもらえると長所がわかるでうれしいですね。これを読んだ皆さんも、VCの人に「うちってどんな会社ですか?」「うちの取締役会って他社と比較してどうですか?」などとたずねてみてはいかがでしょうか。

SmartHR社、CFO交代の舞台裏(イベントの宣伝)

文中でも少しふれましたが、来週「SmartHR社、CFOサクセッションの舞台裏」と題したイベントをNstock社主催で開催します。主にスタートアップのCEO、CFOを対象とした内容になる予定です。

登壇者は SmartHR 前 CFO の玉木さんと、新 CFO 森さん。モデレーターはNstock代表でSmartHR創業者でもある宮田です。

抽選制ですが、ご興味をお持ちいただいた方は以下の申込みフォームよりご応募ください。

【申込受付中】10月11日(水) SmartHR社、CFOサクセッションの舞台裏 by Nstock nstock.co.jp

SmartHRでもNstockでも積極採用中です

強いボード・カルチャーがある SmartHR 社、宮田とコバケンさんが働く Nstock 社、どちらもオススメなのでよければ採用資料をご覧くださいませ!

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