Nstock CEO / SmartHR 創業者の宮田です。
「SmartHR はもうスタートアップではない」
創業者の私は、ここ1〜2年そう考えていました。
しかし、それは誤りでした。SmartHR は規模こそ大きくなりましたが、そのカルチャーは今もスタートアップそのものでした。いえ、もしかしたら昔よりもスタートアップしているかもしれません。
新 CEO の芹澤さんが3人だけの非公式チームをつくり、自らもコードを書き、社内課題を解決するプロダクトを自社プラットフォーム上で動かしている。
プロダクトはその出来の良さから、社内で自然と流行り、なんなら製品化して顧客に販売することも考えはじめています。
昨日のブログで芹澤さんはあえて「新しい大企業」という言葉を使ってはいましたが、こんなにスタートアップらしいエピソードは、創業期の SmartHR にもあまりなかったような気がします。
今回は、SmartHR 社の新 CEO 芹澤さんが中心となって開発された非公式プロジェクト「社内イベントアプリ(仮)」について非同期でインタビュー形式にまとめました。
社内イベントのツラミを解消するアプリ
まず最初に「社内イベントアプリ(仮)」について紹介します。
SmartHR のプラットフォーム上で動くアプリケーションで、社内イベントのさまざまな課題を解決します。
解決したい課題(PRDより転記)
企画、運営する従業員
- 社内イベント企画、運営における幹事の業務がとても大変
- 参加者管理や決済管理、日程調整が大変
- プロジェクト進行管理やタスク管理が大変
- イベント開催したいけど、集まるかどうかわからない
- 当日のキャンセル対応など大変
- 定期的なイベントを毎週のように回すのが大変
- もっと多様なたくさんの人にイベントに参加してほしい
参加する従業員
- 社内でどんなイベントがいつどこでやっているのかわからない
- 社内でどんな部活、勉強会が開催されているのか知りたい
経営者、人事
- 社内イベントの効果や課題を分析したい
私自身、幹事としてファミリーデイ、キャンプ部、休日せんべろツアー部といった社内イベントを企画するにあたり、下記のような課題を感じていました。
- 「企画したいけど、人が集まるか不安」
- 「集まりすぎて断るの気まずいし、先着順や抽選ルールも考えるの大変」
- 「抽選にして仲良い社員が全員落ちて幹事なのにアウェイ」
- 「ドタキャンまじ勘弁してくれ〜〜」(代打を探すの大変)
これらの課題が解消されます!!
開発のきっかけは、アプリストアのドッグフーディング
宮田: まずは「社内イベントアプリ(仮)」を開発することになった背景を教えてください。
芹澤: SmartHR のアプリストア上で動くアプリケーションを開発する上での課題やハードルを、ぼくと布施さん(後ほど登場します)がきちんと理解したいと思ったことがきっかけでした。
宮田: SmartHR にアプリストアがあることを知らない読者も多いと思うので、少し解説お願いできますか?
芹澤: はい、実は SmartHR にはアプリストアがあります。「SmartHR Plus β版」という名称で、昨年の7月からベータ版として提供中です。
ここに掲載されるアプリケーションは外部パートナーによって開発され、SmartHR 連携におけるセキュリティ、品質管理は SmartHR が担っています。
このアプリストアに人事向けのアプリケーションを掲載することで、外部パートナーは既存製品の販路拡大や、新製品開発ができます。
また、SmartHR 導入企業は、掲載されているアプリケーションを利用することで、より便利に SmartHR を活用することが可能です。
宮田: 解説ありがとうございます。
外部ベンダーさんが、SmartHR Plus 上で動作するアプリを開発する際に「どこで困るのか?」。
その課題を見つけて理解するためにドッグフーディング(自社製品を実際に利用しながら改善に活かすこと)しているんですね。
芹澤: その通りです。
加えて、より開発〜販売しやすくするために、土台部分を共通化する際、「何をどこまで、どのように共通化すると DX(Developer Experience)が高まるのか?」といったヒントを得ることも目的にしています。
宮田: なるほど。ちなみに、なんでそれを CEO の芹澤さんが自らやってるんですか?
芹澤: アプリストアが今後の事業戦略上とても重要……というのはもちろんですが、ぼく自身がコードを書く喜びを取り戻したかったというのも大きな理由ですね(笑)
なぜ社内イベントをテーマに?
宮田: ドッグフーディングが目的であれば、アプリの題材はなんでもよかったと思うのですが、「社内イベント」を題材に選んだ理由はなんだったんですか?
芹澤: ぼくも社内で「ワインを情報で飲む部」という毎回数十名の参加者が集まる部活を主催しています。その度に「参加者コントロールが大変!」という課題を感じていて、どうせならそれも解決したいと思いました。
宮田さんも言ってましたけど、今の800名近い会社規模で参加者を広く募ると「めちゃくちゃ参加者増えちゃわないか」とか「手作業で参加者を選ぶのしんどいな」とか、部活の主催は正直おっくうです。
部活補助(SmartHR 社では1人1,500円/回を補助)が出なくてもいいので、「部活じゃなくてプライベートでやろう」となりがちです。しかし、それではメンバーも固定されてしまい社内コミュニケーションは活発になりません。
宮田: そういえば、ぼくが WeWork の入居者用アプリを触りながら「今日あるイベントがわかって楽しい」って雑談してたとき、芹澤さんそれに「画面見せて!」って食いついてましたよね。
芹澤: そう、参加者側からしても、社内でどんな部活やイベントが開催されているのかがわかりにくいという問題もありますよね。楽しそうなイベントの開催を事前に知れれば、参加したいと思う人も増えるはず。
あとは、人が集まるのかどうかがわからないイベントを開催しにくいので、クラウドファンディングっぽい感じで「人が集まらなかったら開催しないし、集まれば開催する」みたいなゆるい企画なんかもやりたいなと思って。
それらを実現するアプリケーションを SmartHR のプラットフォーム上に作るのは、とても相性がいいと思ったんです。
非公式チームはどんなメンバーなの?
宮田: 「社内イベントアプリ(仮)」は、どんなメンバーで開発しているんですか?
芹澤: ぼくと布施さん、疋田さんという3人のエンジニアで開発しています。組織図にもない非公式チーム、まあ趣味みたいな感じでやっていますね(笑)
宮田: どうやってその2人に声をかけたんですか?
芹澤: アプリのアイデアを書いたメモを Slack で2人に送り、「まずはペアプロから始めませんか〜?」というテンションで声をかけました。
2人とも2018年入社で、もう4年以上 SmartHR に在籍しているんですが、実は一度も同じチームで働いたことがなかったんです。
宮田: え!それは意外だったかも〜。昔からよく話しているイメージがあったので、てっきり同じチームは経験しているだろうと思っていました。
芹澤: 一緒のチームで働いたことはなかったですが、2人とも新しいことが好きな優秀なエンジニアであることはもちろんよく知っていました。
布施さんは、業務外でも四六時中コードを書いているようなタイプですし、当時 CEO 直下でぼくのレポートラインにあったので、タスク管理と声かけがやりやすかったこと。
疋田さんは、いまはエンジニアから PdM に異動していますが、開発が好きで、特にプロダクトの初期はめちゃくちゃ手が速いことを知っていて、ちゃんと PRD(プロダクト要求仕様書)が書けることも理由ですね。
宮田: 声をかけたとき、2人はどんなリアクションでしたか?
芹澤: 布施さんは「いいですね!いつでも大丈夫です!」と二つ返事で、
疋田さんは「社内勉強会、社内セミナー、研修、シャッフルランチ等も同様の課題がありそうですね。イベント実施中の Q&A とか、実施前後のサーベイもできそう。SmartHR の人事データと連携しているので、歓迎会、部活、シャッフルランチ等によく参加してる人の属性がデータで取れて分析できるのも面白いかもと思いました。これはもう、タレントマネジメントですね。」と返事がきて、ぼくも「あ、普通に売れそう」と思いました。
宮田: それぞれキャラクターがたってますね(笑)
プロジェクト、出だしから順調だった?
宮田: ここからは布施さん、疋田さんにもお話を聞いてみたいと思います。 3人は急造チームだと思うんですが、出だしはどんな感じでしたか?
芹澤: 実は11月くらいから布施さんに「アプリの土台を作って」とお願いしていたのですが、どんなに催促しても12月になるまで作ってくれなかったんですよね。
布施: やりだすと楽しくなって、本業の業務時間を圧迫しそうだったので、わざと本業がひと段落するまで手をつけませんでした。
宮田: (笑)
芹澤: MVP(顧客に価値を提供できる最小限のプロダクト)としては大体1ヶ月で完成しましたね!
宮田: そんなに早かったんですね!
かなり初期に参加者側として「社内イベントアプリ(仮)」を触ったんですが、「イベント管理アプリとして、すごくよくできているな〜」と関心しました。
ぼくは「マルシンスパを貸切で楽しむ会」に参加申し込みしたんですが、貸し切りは「6名まで」だそうで、イベントは「抽選」になっていました。
そこに13名の応募があって、ぼくは残念ながら抽選外れちゃったんですが、「キャンセル待ち」の機能があってドタキャン対策ができてたり、一緒に企画した人は「管理者」として抽選の対象外にできたり、1ヶ月でつくったレベルには見えなかったですね。
疋田: 1月中旬に社内でひっそり公開したんですが、徐々に使われるようになってきて、部活だけでなく、COO の倉橋さんが「ハーバードMBAで履修した交渉術」の社内勉強会に活用したり、シャッフルランチなどの社内公式イベントでも利用されるようになってきました。
利用してくれた社員の方からフィードバックをいただけるので、それにもなるべくすぐに対応しています!
布施: 300名以上が申し込んだ社内イベントにも使われていて、いい負荷テストになっています。
疋田: 数百名規模のイベントだと、「参加者一覧はちゃんとパフォーマンス改善しないとだめそう」とか、使ってもらうことで改善点も発見できています。
やっていて面白いことは?
宮田: なんだか楽しそうですね。せっかくなので、こういう取り組みの醍醐味を教えてもらえますか?
芹澤: やればやるほど、「SmartHR Plus β 版」に掲載するアプリ実装の改善点というか伸び代が見えてくることですね。
あとは単純に、自分たちの好きなようにコードを書くことが楽しいこと。現状は社内限定公開とはいえ、使ってもらえてすぐにフィードバックをいただけるのは嬉しいですし、少人数チームでスピーディに意思決定をしていくことの気持ちよさや、そのスリル感が味わえることは醍醐味ですね。
布施: 業務だとまっさらな状態からアプリケーションを作ることはほとんどないので、そういった観点で SmartHR のプラットフォームに触れたのがおもしろかったです。参入障壁解消のための改善点も見えてきました。
ほぼMTGなしで、非同期で進められたのもすごいなと思いました。作業時間もみんなバラバラだったので。疋田さんが PRD を書いてくれたのですが、PRD と共通認識さえあれば、みんな自分で考えて自分で作っていけるのがすごく心地よかったです。
あと、「SmartHR Design System 」のおかげで、文言から画面要素までUI周りの悩み事から解放されてサクサク開発できて感謝しきりでした。
疋田: 新しいことに取り組みやすいことですね。
「社内イベントアプリ(仮)」では、普段使ってない技術も積極的に取り入れられていますし、figma でモックをつくったり、普段の業務とは違うことにチャレンジもできています。
あと、芹澤さんと同じですが、少人数でのスピーディーな意思決定と実行はとても心地よいですね。
芹澤: Google には有名な「20%ルール」というものがあり、そこで行われた自由な活動からいくつかのイノベーションが生まれたと聞いています。
振り返ってみると、今回の活動はそれに近いものがあるなと思っていて、CEO という視点では、こういったことに誰でもチャレンジできる仕組みを作ることにとても興味が沸きました。
業務上の制約から解放されて伸び伸びと探索活動をすることで、新たな発見や発明につながる。これこそが今後ぼくたちの組織で「イノベーションのジレンマ」を打破していくヒントなのではないでしょうか。
締めコメント
宮田: 最後に、それぞれ締めコメントをいただけますか?
布施: 社内から予想以上に反響がもらえてうれしいかぎりです。
学びも多く、なにより楽しかったので、多くの人にこういったプロジェクトを経験してもらいたいです。
そのためにも、気軽に思いつきを実装に移せる仕組みを整えていきます!
疋田: PM になってからは、あまりコードを書けていなかったので純粋に楽しいですし、社内からフィードバックもたくさんいただいているので今後も改善していきます。
今はまだ SmartHR のプラットフォームでアプリを作り始めるのは、多少ハードルがある状況だと思うので、誰もが気軽に作れるような基盤を整えていきたいなと思いました。
芹澤: 自ら手を動かすと得られる学びの数も桁違いだなと思いました。もっと DX(Developer Experience)を高めていきたい。
コードを書く喜びは無事に取り戻しましたが、あまりハマりすぎないように気をつけます!
宮田: 3人ともありがとうございました〜。
ちなみに、このインタビュー記事も Slack と GoogleDocs を活用して完全に非同期で作成しました。
短時間でサクッと書けましたし、布施さんが言っていたとおり、なかなか心地よかったです!
冬の時代でも積極採用中です!
SmartHR 社では「課題解決ジャンキー」なみなさまを、積極的に募集中とのこと。
規模が大きくなり、複雑な課題が増えているので、課題解決ジャンキーの自覚がある皆様にはピッタリな職場かなと思っています。
また、1年前に設立した Nstock 社でも積極的に採用中です。
「日本経済を復活させるのは自分たちしかいない」と思って事業をつくっています。Nstock は現在ちょうど10名のフェーズで、それこそめちゃめちゃスタートアップな環境です。
事業内容など詳しくは↓採用資料をご覧ください。
当然ですが、SmartHR と同等かそれ以上に魅力的な会社にします。