ひさしぶりのブログです。この度、株式会社 SmartHR の社長を退任することにしました。
退任の理由や、今後の私の役割、新社長について等をまとめたブログを書いたので、よければ最後まで読んでいってください。
社長を退任します
2013年1月から、約9年間続けてきた SmartHR の社長を退任することに決めました。 退任の理由は後で詳しく書きますが、まずは結論から。
- 社長を2022年1月1日で退任します
- 新 CEO は現 CTO の芹澤さんです
- 取締役として会社に残り、自ら新規事業をやります
肩書は「代表取締役 CEO」から「取締役ファウンダー」に変わります。
詳細はこちらのプレスリリースをご覧ください。
退任を考えたきっかけ
退任を考え始めたきっかけは「会社の成長にあわせて起きる環境の変化に、適応し続けることが難しくなった」と感じるようになったからです。
過去の自分を振り返って自己評価すると、会社が10名のとき、50名のとき、100名のとき、コロナ禍に突入した200名のときの私は「Great」な CEO だったなと思います。
しかし、この1年の300名から500名に増えるフェーズでは「Good」すら獲れていないと思います。
いま SmartHR の経営が絶好調なのは、2〜3年前の意思決定や行動のおかげであって、この1年くらいの自分は、会社の未来に大きな貢献ができているとは思えなくなりました。
社員数が500名を超え、これから1,000名、2,000名の会社に成長していくことを考えると「SmartHR 社の CEO を次世代にバトンタッチしたほうがいいのでは?」と、今年の春ごろから考えるようになりました。
変化に適応し続ける奴が一番強い
この会社は2013年1月創業です。「自分たちの代表作となるプロダクトをつくろう」と始めた会社でしたが、最初は何も上手くいかず。受託開発で日銭を稼ぐだけの、何も変化のない日々でした。
SmartHR のアイデアを思いついたのは、創業から2年経った2015年2月。正式リリースは2015年の11月でした。いまから6年前ほど前の出来事です。そこからは本当に変化の激しい、激動の毎日でした。
SmartHR の開発をスタートしてからのこの6年間で起きたことは、
- 受託開発の会社から SaaS の会社に
- ARR は0円から数十億円規模に
- 社員数は0名から500名規模に
- 時価総額は初回の資金調達時と比べて4,000倍以上に
と、ずっと同じ会社を経営しているとは思えないような急成長でした。
この急成長は、自分たちの想像をはるかに超えており、経営者としても求められる変化が大きかったです。
私の持論は「変化に適応し続けられる奴が一番強い」です。
2020年頃までの私は、激動のなかでも、求められる役割や環境の変化にうまく適応できていて、リーダーとして会社を急成長させることができました。
いまでは、SmartHR は日本を代表するスタートアップの1社になり、今年は遂にユニコーン企業の仲間入りを果たしました。そのような偉大な会社のリーダーを務めることができたのは、私の人生の誇りです。
しかし、前述の通り、この1年は「この環境の変化に適応できていないな」と感じるようになりました。
もちろん、社長を続けたい気持ちがゼロな訳ではありません。例えば、いち起業家として、「上場企業の社長」もいつかは経験してみたかったです。その残念さは退任後にも少し残るかなと思います。
しかし、変化に置いてかれはじめている私がリーダーを続ける限りは、会社の成長が鈍化する可能性がある。そうではなくて、自分よりも会社を大きく成長させられる次世代のリーダーにバトンタッチすべきだ。
そう考えて、退任を決意しました。
なぜ CTO 芹澤さんが新社長か?
ここで、新 CEO になる芹澤さんのことを紹介させてください。彼はいま CTO(最高技術責任者)として、SmartHR の主にプロダクト組織の責任者をしています。
いちエンジニアとして、2016年に正社員で入社して以降、めきめきとその実力を発揮し、2017年に VP of Engineering に、2019年には CTO に就任しました。
特に、組織づくりや組織運営の手腕は目を見張るものがあり、知識や実行力はもちろんですが、天性の才能があると思います。また、持ち前のリーダーシップやプレゼンテーション能力で、ビジネスサイドからの信頼も厚い経営者です。
初期からずっと彼を近くで見ていますが、この会社の急成長よりも、個人としての成長スピードが早く、まだまだ伸びしろも大きい、とても稀有な人です。
会社の成長にあわせて成長・変化できている人の代表例として、カンファレンスや取材でも、彼の名前を何度も挙げてきました。
また、マーク・アンドリーセンの「Software is Eating the World」の言葉の通り、あらゆる産業がソフトウェアによって変革されていく時代です。加えて、今後は国内の SaaS 業界でも競争がより激しくなり、構造上の強みを持ち続けられない企業は淘汰され、大手を中心とした統廃合も進んでいくと考えています。
そんな時代に、強いビジョンを持ったエンジニア出身の CEO が会社を引っ張っていくことは、事業においても、採用や組織づくりにおいても、長期目線で見たときに強みになると考えています。
自分よりも、この会社を成長させられる芹澤さんにバトンパスを決めました。
新 CEO 決定のプロセス
もちろん、私の一存で決めた訳ではありません。
社外取締役や、オブザーバーを含めた取締役会で3〜4ヶ月にわたって議論してきました。
結果、最終的に満場一致で芹澤さんが新 CEO になることに決まりました。
余談ですが、「CEO を退任します」と言うと、「新 CEO は COO の倉橋さんですか?」と高確率で聞かれます。COO 倉橋さんも、芹澤さん CEO 案を推していたことを書き添えておきます。
芹澤さん自身も CEO をやりたいと意思表示してくれた
私が言うのも変ですが、SmartHR 社の CEO は責任も重く、大変な仕事です。
500名の正社員を雇用し、累計で約240億円ほどの出資も募っています。無料ユーザーを含む登録企業数は4万社以上にのぼり、ユニコーン企業として周囲からの期待も大きい。
しかし、そんな重い責任がのしかかることを承知の上で、彼から自発的に「CEO をやりたい」と言ってくれました。
加えて、会社のカルチャーについて、働き方について、成長を継続させていくことについて、強い意気込みを語ってくれました。
早すぎる退任ではないか?
先週、Twitter のジャック・ドーシーが退任を発表していました。彼らもまた CEO から CTO へのバトンタッチでしたね!12年前から Twitter を利用しているので、親近感でうれしくなりました。
しかし、時価総額5兆円の Twitter と比べると SmartHR はとても小さく、まだまだ若い会社です。私が退任する意思決定も、おそらく多くの方が「早すぎるのでは?」と思われると思います。
ただ、SmartHR はこれまでも「早すぎるのでは?」と言われるタイミングで行動を起こして、急成長してきた会社です。いくつか具体例を紹介したいと思います。
1つ目は、私がプロダクトに関する意思決定をバトンタッチしたタイミングです。驚かれるかもしれませんが、そのタイミングは 2016年の夏頃。SmartHR をローンチしてわずか半年、社員数もまだ1桁のころです。
2つ目は、SmartHR が評価制度をつくり始めたタイミングです。これも同じく、2016年夏の、社員数1桁のころからです。外部のコンサルの方と一緒に設計をはじめ、社員数が15名になる頃から運用を始めました。
3つ目は、テレビCMのタイミングです。はじめてテレビCMを放映したのは2017年の夏頃。契約した当時の SmartHR は、MRR1,000万円にも満たなかったと思います。そのタイミングで、銀行口座の残高の約半分、1億円以上かけてテレビCMを決めました。
おそらく、多くのスタートアップの CEO は、プロダクトのローンチから数年間はプロダクトに関わっていると思いますし、評価制度も社員数50〜100名くらいで考え始めるのが一般的なように思います。テレビCMに関しては、いまこれを書きながら自分でも「早すぎるのでは??」と思ってしまいました(苦笑)。
ここで、SmartHR 社が重視する7つのバリューの1つ「早いほうがカッコイイ」を紹介します。
早いほうがカッコイイ
あれこれ悩む前に、動き出そう。まずは荒削りでもOK。最速のアウトプットを心がけ、フィードバックのループを素早く回していこう。大きな意志決定も、即断即決でいこう。それがチームを加速させ、社会を加速させる原動力になる。
なので、私達にとっては、早すぎるくらいでちょうどいいですし、これまでは結果もついてきています。紹介した3つの例についても、本当に早めにやっておいてよかったなと心から思っています。
大きな意思決定も、即断即決していくことは、SmartHR の急成長を支える重要なカルチャーになっています。
会社のカルチャーは変わるか?
カルチャーの話に少し触れたので、次はカルチャーについて書こうと思います。
起業家の成功は基本的に「何をするか」ではなく「何者であるか」によって決まる、とビルは考えていた。優れた絵画や楽曲が芸術家の内なる価値観を反映するのと同じように、優れた会社にも起業家の価値観が表れる、と。
これは最近読んだ ビジョナリー・カンパニー ZERO からの引用です。
ここに書かれている通り、SmartHR という会社は、私の価値観が少なからず反映された会社になっているんだろうなと思います。
その会社のリーダーが代わるわけですから、会社のカルチャーも確実に変わると思います。
しかし、その変化はゆるやかで、真逆のカルチャーにはならないと思っています。その理由をお話しようと思います。
まず最初に、芹澤さんも実質的な創業メンバーの1人だということです。
今から6年前の2015年11月18日、私は TechCrunch Tokyo 2015 のスタートアップバトルで SmartHR をプレゼン、その場でサービスの正式公開を発表しました。SmartHR はスタートアップバトルで優勝を勝ち取り、その日のうちに複数のテック系メディアで記事になり、最高のスタートを切ることができました。
その日、芹澤さんは一般来場者として会場に来ていました。観客席から SmartHR の優勝を見ていて、表彰式のあとすぐに「転職に興味がある」と声をかけてくれました。その約1ヶ月後から一緒に働きはじめましたが、当時の会社には、私を含めてもたった3名のメンバーしか在籍していませんでした。
つまり彼は、SmartHR のことを Day 1 から知る数少ない人物であり、この会社を一緒につくって来た、実質的な創業メンバーの1人と言えるでしょう。
次に、いまの SmartHR のカルチャーには、既に芹澤さんの価値観が色濃く反映されているということです。
ありがたいことに「SmartHR は素晴らしいカルチャーをもっている」と、導入企業の皆様や投資家をはじめ、多方面から良い評価をいただいています。しかし、このカルチャーは創業初日から存在していたのではなく、会社が成長する過程でつくられ、積み重なってきたものです。
彼は、6年前の入社直後から影響力を発揮し、この SmartHR のカルチャーをつくってきた中心人物の1人です。私自身も、ロジックや数値だけでは判断できない意思決定の際には「芹澤さんがこの意思決定をカッコイイと感じるか?ダサいと感じるか?」を、とても参考にしてきました。
なので、皆さんが知っている SmartHR のカルチャーは、既に芹澤さんの考えや価値観が強く反映され、つくられてきたものです。
新体制になり、会社のカルチャーは徐々に変わっていくと思いますが、これまでのカルチャーを踏襲しながらも、これからの急成長、組織拡大にも耐えうるカルチャーに、芹澤さんがアップデートし続けてくれると信じています。
松﨑さんのアドバイス
SmartHR の社外取締役の松﨑さんのアドバイスも紹介させてください。
松﨑さんは上場企業の社長を、前の社長からバトンタッチされ、自分も後任の社長にバトンタッチした人で、いわば社長交代の経験者です。
その松﨑さんが「宮田さんがしっくりくる人に任せたほうがいい」とアドバイスしてくれたことも後押しになりました。
そのアドバイスを聞いて、芹澤さんの口から「CEO をやりたい」という言葉を聞いたとき、しっくりくるどころか、「芹澤さんに任せれば安心」を通り越して、「やりたいと言ってくれてありがとう」「6年前に SmartHR を選んで入社してくれてありがとう」と彼に感謝し、とても晴れやかな気持ちになりました。
何気ないアドバイスかもしれないですが、一番響いたアドバイスでした。
なんで「会長」じゃないの?
社長退任後の私の肩書は、冒頭でも書いた通り「取締役ファウンダー」です。
最初は「会長」という案もあったのですが、すぐに候補から消えました。
例えば、ロゴのリニューアルとか、人事制度を抜本的に見直すとか、影響が大きな意思決定の際、社員の皆さんが「これは会長にも確認しておいたほうがいいかな?」と迷わせてしまうだろうなというのが理由です。
今後、SmartHR 社の最終意思決定者は新 CEO の芹澤さんです。
宮田は何をするの?
バトンタッチが決まった段階では、実は何をするかあんまり決まっていなかったのですが、9月中旬に新規事業のアイデアを思いつきました。これからは新規事業に90%以上の時間を使います。
国内のスタートアップ業界に貢献できそうな事業内容で、思いついた瞬間に「あ、これやりたい!」と思えました。20代でグチャグチャになった人生を取り戻してくれたスタートアップ業界に、30代後半と40代前半の人生を捧げようと思います。
次の新規事業は SaaS + Fintechです。今のところ「大成功か、大失敗か」なタイプの事業のような気がしています。18ヶ月で打ち切りになるかもしれませんが、もし大成功できれば SmartHR を超える可能性もワンチャンあるかもと思い、燃えています。2匹目のユニコーンをつくるぞ!
あと、気になる人もいると思うので、書かなくてもいいこともあえて書きます。
自分の人生にとっては、大きな一区切りではあるので、SmartHR 社を辞めて独立し、この新規事業でもう一回ゼロから起業することも、当然ながら頭をよぎりました。しかし、いろいろ考えた結果、SmartHR グループに残り、SmartHR 100% 子会社をつくって、そこで事業をやることに決めました。
残る理由は「SmartHR 事業とシナジーがある」はもちろんなのですが、それは理由の2割くらい。残りの8割は、自分の性格や心情、美学といった個人的な理由です。
新規事業についての詳細や、SmartHR グループに残る理由についても、そのうちお知らせやブログを出すと思うので、そちらもお楽しみに。
最初から採用もやっていきます!エンジニア 2〜3名と、金融・Fintech のプロ1名を募集しますので、我こそはという方はお声がけください〜!
↓応募フォーム置いておきます!
SmartHR 本体の役員も続けます
また、冒頭でも書いた通り、SmartHR 本体の取締役ファウンダーとしても在籍し続けます。
SmartHR 本体の取締役としての立場と、いちグループ会社の代表としての立場。その両方の立場を活かして、グループ全体の最適化を考慮しつつも、各グループ会社の自由度も制限させない。全体のバランサーとして、積極的にグループ経営に関与していきます。
また、先程 SmartHR 社のカルチャーについて書きましたが、当然、私自身も、この会社のカルチャーを生み出してきた中心人物だと自覚しています。これからも、いち取締役として、この会社のカルチャーに良い影響を与えていきたいと考えています。
SmartHR を応援してくださっている皆さんへ
ビックリさせたらすみません。
でも、これは私達なりに考えた最善の選択です。
会社経営は、正解がわからない選択の連続です。これまでの9年間もそうでした。
本当に人事労務の市場でビジネスをスタートでいいのか? 本当にこの VC から資金調達していいのか? 本当にこの人を採用していいのか? 本当にこの人事制度をスタートしていいのか? etc...
迷ったときはいつでも「どの選択肢が正解かはわからないが、選んだほうを正解にする実行力こそが大事」だと思って経営してきました。
CEO を退任するという選択、芹澤さんに新 CEO のバトンを渡すという選択、この選択が100%正しい選択だったかどうかは現時点ではわかりません。
しかし、これまで通り、この選択を正解にできるように、芹澤さんはより一層の成長を見せてくれると思いますし、私もそれをサポートしたいと思っています。
引き続き、SmartHR と、新 CEO の芹澤さんをよろしくお願いします。
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最後に、ちょっとだけ宣伝です。
今週12/11(土曜)に開催される「WORK and FES 2021 “Relationship”」で、現CEOの宮田と、新CEOの芹澤さんとで「これからの時代の、企業と人の関係性」というテーマで喋るセッションがあります。
僕たちの出番は18:55 - 20:00。イベント当日、公式サイト内でライブ配信(無料・申し込み不要)を行いますので、そちらからご覧ください。
日本語ラップ好きの皆さんへ
SmartHR の旧社名は株式会社 KUFU でした。これはライムスターの「K.U.F.U」という曲名からとっています。
創業初期の苦しい時代には、何度も諦めかけましたが、 ZORN の「My Life」や「奮エテ眠レ」を聞いて頑張ってきました。退任直前には Forbes の表紙を飾ることができ「だが時は経ち 今じゃ雑誌のカヴァー」も体現できました。ここまで頑張ってこられたのは、日本語ラップのおかげです。
退任のテーマ曲は ZORN が昭和レコード(当時、般若、SHINGO☆西成が在籍)を辞めて独立するときに出した「Don't Look Back」でお願いします。
おわり